
2004年7月
病気を治し成績を上げるために不可欠な、 関係者間のコミュニケーション

日清丸紅飼料(株)畜産研究所 検査センター 矢原芳博
相変わらず日本全国の養豚場を訪問する毎日が続いています。机の前にじっくりと腰を落ち着けての仕事が元来得意ではなく、旅から旅への養豚場めぐりは性に合っているというか、楽しんで仕事をさせていただいています。ただし、個々の農場でのできごとは、必ずしもニコニコと笑って話せるような状況とは限りません。むしろ私が呼ばれる農場は、どちらかと言えば事故が多発していて対策に苦慮しての訪問要請ですから、かなり深刻な状況がほとんどです。
農場を訪問して、最初に社長や場長などから話を聞き、生産データや抗体検査成績などを見ながらさらに農場のなかを見せていただくのですが、対策の方向性は大体、最初の訪問時に決まっていることがほとんどです。では、私が訪問した農場は訪問した途端に、立ちどころに問題解決するかというと…、実情は全く違います。いくら豚の生理学的な知識や微生物学的な知識を基に対策を組み上げても、それが農場内で目論見どおり確実に実行されるかどうかが非常に大事なポイントです。よく考えれば当たり前のことかもしれませんが、最近このことを身にしみて実感しています。
「この農場はPRRSの重度感染で離乳時に事故率が多いので隔離離乳場所を設けて…」とか、「この豚舎は換気がうまくいかないから、ダクトファンをつけて…」など、農場の状況に応じた対策のアイデアは、過去の経験上浮かびますので一通りの対策を提案して帰るのですが、次回の訪問時に既に問題が解決している場合とそうでない場合がはっきりと分かれます。若いころの私であれば、「せっかくいい対策を提案したのに何でやらないの? 全くもう…」、と実行されていない責任を農場に求めて腹を立てることがしばしばでした。逆に、出したアイデアがピタリと当たり、劇的に成績が改善されると、口では「農場の皆さんが頑張ったからですよ」と言いながら、内心鼻高々だったことを告白します(お恥ずかしい限りです)。
要は、理屈で練り上げた対策について、
(1)農場の方々に本当にその考え方が伝わったか、
(2)その対策が農場の作業のなかで本当にやり切れることなのか、
(3)実際に作業をする立場の人との間で、いかに意思が疎通できたか、
が大事なことだったのです。これがうまくいっていれば、私の出した対策案が多少間違っていても、農場の方々がきちんと軌道修正してくれます。農場で病気が治るか治らないかの境目は、技術的な対策案の問題よりも、むしろ関わる人間のコミュニケーションの問題であることを、この年齢になって痛感しています。
そう言えば、養豚コンサルタントで活躍されている獣医の先生方は、皆それぞれ人間的な魅力があるし、契約されている農場の方との人間関係も太いものを感じます。まず相手に自分の考え方をしっかりと伝える努力をされているのが伝わります。何だが精神論になってしまいましたが、疾病の問題がなかなか解決できない農場では、社長と社員、場長と作業担当者との間で、同じようなコミュニケーション不足の問題が起きているのではないかと思い、あえて取り上げてみました。(列島豚病フォーラム)
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「ピッグジャーナル」(アニマル・メディア社発行)2004年7月号掲載
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